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「それじゃあ、お母さんと約束してくれる?」


「約束?」


「そう……あなたにはこれから先、ずっと優香ちゃんの
 ことを守っていってもらいたいの」


「お母さんはもう、大丈夫だから。
 今までずっと、達也に守ってもらってきたから…」


「…………」


「優しいお兄ちゃんになってあげて?
 それがお母さんからのお願い……約束してくれる?」




母親の再婚。

それが兄と妹の出逢いだった。

両親の他界。

それが兄と妹の『はじまり』だった。


義父の連れ子であった優香は、泣き虫で人見知りをする女の子。

守ってあげなければいけなかった。

両親がいなくても、普通の女の子としての幸せを。

他の家の子供に生まれてくればよかったなんて、妹に思わせないためにも。

両親の再婚が、まちがいだったなんて言わせないためにも……。



だから、兄は妹を大切に育てた。

彼女が帰ってくれば、必ず「おかえり」と笑顔で出迎えた。

幼い頃から妹の兄として、親代わりとして生きてきた岩崎達也。

なのに、妹の優香は……。




「残念ながら、お兄ちゃんに悪いお知らせだ」

「あの……また優香が何か?」

「ああ。ちょっと厄介な傷害事件をな」

「しょ、傷害事件!?」

「別に、迎えにこなくたってよかったのに…」

「え…?」

「警察からの電話なんて、無視してればいいでしょ?」

「…ごめん。でも、心配だったからさ…」


思春期を迎えた頃から素行が悪くなり、彼女を警察まで迎えに行くことは兄の役目だった。

何歳になっても、妹のことが心配な達也。それに嫌悪感を示す優香。

幼い頃、彼らを義理の兄妹として結びつけていた両親は既になく、
だからこそ兄は義妹との関係にこだわった。


たとえ妹に嫌われ、避けられる日々でも……達也にとって、優香はこの世に二人といない大切な妹だった。



そんな優香がある日、部屋に友達を連れてくる。

その出逢いが、兄妹の関係に微妙な変化をもたらすことなど気づきもせずに……。




「…兄妹って、素敵ですね」

「素敵…?」

「はい。私もお兄さんがいたら、きっといつも甘えて
 傍にいると思います」

「…………」


「いいね、仲がよくて…」

「え…?」

「なんか、本当の兄妹みたい。
 見てると、ちょっとだけ妬ける…」

「優香…?」

妹の友人、天童寺菜々子。

それは達也が初めて身近に接する、妹以外の『異性』だった。

二人の出逢いは、確実に兄と妹の日常を変えていく。

目もくらむようなスピードで、”現在”は”過去”を塗りつぶしていく。





「がんばれって、言ってほしい?」

「え…?」

「菜々との仲が上手くいくようにって、応援してほしい?」

「いや、俺は…」


「…………」







「…悔しいから、応援してあげない」




そして兄と妹の向かう”未来”は、

彼らがそれぞれ選んだ道の終着は……。




「ごめんね、達也。お母さんを許してね…」

「……お母さんって言っても、義理のでしょ?
 本当のお母さんじゃないじゃん」

「それなら、今のこれも……『ごっこ』なんですか?」

「…お邪魔みたいだから、さよなら」

「お願い、ここにいて? 優香ちゃんを追わないで…」

「……しちゃいましたね。お兄ちゃん離れ」 



…所詮、家族なんてこんなものさ。

…審判の時は来た。

全てを終わらせる一言が、屋上に、そして俺の心に、
静かな余韻を残していく。

伸ばした手は、優香に届かなかった。

でも、それを悲しいとは思わなかった。

優香の真っ直ぐに伸びた背中を見て、今までの自分が
決して間違いではなかったと自惚れることができたから…。






 

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